水の話
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保存してうま味を引き出す塩と微生物

微生物がタンパク質やデンプンを分解

 生の食品を放置しておくと、やがてそれまでとは違う臭いを放ち、形が崩れていきます。このような状態を腐ると呼んでいます。ものが腐敗する原因は微生物です。空気中をはじめ、土や水の中、さらには人の体の表面や腸内にも様々な微生物がいます。これらの微生物は一定の条件さえ整えば増殖をはじめます。微生物が増殖をするための条件には一定の水分、栄養、温度、pHなどがあります。
一方、生の食品とはいっても、根から切り離された後の野菜や果物でも、一つひとつの細胞は生きています。そのため呼吸などが行われ細胞内の栄養が消費されます。古くなった野菜や果物が新鮮なものに比べて風味が劣るのは栄養が消費された結果です。そして根からの水分補給ができないため、細胞はやがて死滅していきます。細胞が死ぬと、細胞の中の有機成分は細胞自身の酵素によって自己分解をはじめデンプンが糖化されます。果物などは腐りかける直前が一番甘いといわれることがあるのは、そのためです。
こうして細胞の中のデンプンが糖に変わるなどの環境が変化をすることで微生物が繁殖をはじめる条件がつくられると、微生物が細胞の中のタンパク質やデンプンを分解しはじめます。




乳酸菌の力でタンパク質がうま味成分に

 食品が腐るのは腐敗菌が繁殖するためで、食中毒の原因となる成分をつくり出してしまいます。そこで現代では冷蔵庫で保管することで腐敗菌の繁殖を防いでいます。ただし低温での保管は腐敗菌の繁殖を緩やかにするだけで殺菌するわけではありません。
冷蔵庫などのない時代に食品の保存方法として考えられたのが日干しにしたり塩漬けにしたりする方法でした。いずれの方法にも共通しているのは乾燥や浸透圧によって食品の水分を減少させることで腐敗菌が活動しにくい環境をつくりだしていることです。野菜などから水分が失われて自らの酵素によって分解をはじめると、いわゆるアクや青臭さがなくなり生の時にはなかった風味が出てきます。一夜漬けは発酵を伴いませんが、それでもおいしいとされるのは浸透圧によって水分が失われ、自己分解によって素材そのものがもっている風味が引き出されるからです。魚の干物やスルメなどの乾燥食品は細胞の中にある分解酵素によっておいしくなります。
塩漬けにしてしばらくすると乳酸菌や酵母菌などの発酵菌が増殖しはじめます。野菜の漬物の酸味は乳酸菌によるものです。発酵菌も腐敗菌と同じように有機物の分解を行います。ただし分解によってつくられるものは腐敗菌とは異なっています。生物の細胞は主にタンパク質、炭水化物、脂質などによって構成されています。このうちのタンパク質は発酵菌による分解によってアミノ酸に変わります。アミノ酸の中にはうま味物質の一つであるグルタミン酸があります。こうして漬物には生の時にはなかった風味が出来あがっていきます。




発酵と腐敗の違い

 有機物が微生物の働きで他の有機物に変化するという意味では発酵も腐敗も同じことです。違いは人にとって有用な変化かどうかということです。つまり有機物を分解させる働きをする微生物の違いによって発酵といったり、腐敗といったりしています。タンパク質は発酵菌の働きでアミノ酸に分解されますが、さらに分解が進むと悪臭を放つアンモニアに変化してしまいます。
また同じ微生物であっても、食品に対して有用な働きをする場合もあればそうではない場合もあります。パンや清酒づくりには麹(こうじ)カビが必要ですが、干物に対しては食用に適さないものにする働きをします。乳酸菌も清酒づくりには大敵となる菌です。
さらに、人にとって有用かどうかは国や文化によっても異なります。日本人に馴染みの深い糸引き納豆も、欧米人にとっては腐った豆と思う人が多いようです。逆に、日本人にとってはカビだらけのチーズが欧米人には高級食品にもなるのです。


腐った果物
発酵も腐敗も基本的には同じ現象です。いずれも微生物の働きによるもので、人にとって有用かどうかの違いです。



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