水の話
 
炭と日本の文化

人の名前から付けられた備長炭
 現在、白炭の代表のようにいわれているのが備長炭です。池田炭や佐倉炭のように産地の名前のような感じを受けますが、実は、紀州(和歌山県)の田辺で炭問屋を営んでいた「備中屋長左衛門」という人の名に由来しています。紀州でも最初に炭焼を伝えたのは弘法大師だとされています。

その後、田辺、新宮、熊野など各々の炭の産地の名前を付けた炭が作られて、生産量、炭質ともに全国的に名の通った炭となっていました。そして元禄のころ、現在の田辺市でとくに優れた白炭が作られるようになり、それを備中屋長左衛門が備長炭の名で江戸へ販売したのが、備長炭の始まりとされています。
ウバメガシ
備長炭の原料となるウバメガシは、自然条件の厳しい場所に生育します。原木を切り出すだけでも大変な作業です。

 ところで、備長炭の名前で売られている炭には、和歌山以外の産地名が記されているものがあります。しかし、和歌山以外で作られたからといって偽物という訳ではありません。実は平成9年8月まで、備長炭には日本農林規格による定義があったのです。それによると、原木に樫(姥目樫、荒樫など)を使って焼いた白炭で、硬度が15度以上あるものとされていました。つまり、備長炭は産地の名前ではなく、品質名になってしまったのです。そのため和歌山県以外では高知県、宮崎県が備長炭の三大産地となっているのです。この定義は当然、輸入炭にも適用されるため、中国産の備長炭や南洋備長炭というものもあります。そのため、備長炭発祥の地である和歌山産の備長炭はわざわざ紀州備長炭として売られています。ところが、炭の格付けをする公的な機関が何年も前からなくなってしまい、実質的な格付けができなくなったということで、この条文が廃止になってしまいました。つまり、かつての定義にあてはまらない炭を備長炭と名乗っても、もはや本物、偽物とはいえなくなってしまったのです。そして今、備長炭がブームとなっているというのは、何とも皮肉です。

ウバメ ウバメを漢字で書くと姥女。しかし紀州では馬目と書いて読ませています。比較的暖かい地方の岩の多い山地や海岸などに生えています。成長は遅く、直径10cm位になるまで20年ほどかかります。


メニュー1 2 3 4 5 6 7 8次のページ