フジクリーン工業株式会社
水の話 淡水にすむ魚part1
琵琶湖にすむ魚たち

帰化魚が与える生態系への影響
 しかし、琵琶湖にとってもっと大きな問題は、ブラックバスの侵入です。日本には、帰化魚であるにもかかわらず、在来種だと思われている魚もたくさんいます。タイリクバラタナゴ、雷魚の名で知られるタイワンドジョウやカムルチー、メダカによく似たカダヤシやグッピー、ハクレン、ソウギョ、そしてニジマスなどです。
 川や湖など、本来そこにすんでいない生物をもち込むことは、生態系を大きく壊す危険をはらんでいます。とくにブラックバスのような魚食性の魚は、もともとすんでいた魚をエサとして食い荒らすため、その被害は深刻です。かつて、カムルチー(雷魚)が日本にもち込まれたときも、他の魚に与えるダメージが大きいのではと心配されましたが、魚食性とはいっても、どちらかといえば待ち伏せて他の魚を捕えることが多いため、ブラックバスほどのダメージを与えることはなかったようです。また、日本にも、ナマズのような魚食性の魚がいますが、待ち伏せして他の小魚を食べるタイプで、こうした魚たちとは長年にわたり共存してこれたのです。

いわゆるアウトドアブームの一つとして、釣りは相変わらずの人気。しかし釣りの手応えだけを楽しむためにブラックバスなどを勝手に放流することは在来種の魚の生態系をこわしていまいます。
 ところが、ブラックバスは、これまでの日本の川や湖には全く存在したことのないタイプの魚です。ブラックバスがエサを求めるのは、主に岸辺近くの水草地帯です。しかもエサとなる小魚を見つけると、とことん追いかけまわして捕まえてしまいます。ブラックバスはかなりの大食漢です。動物の世界はたしかに弱肉強食です。しかし、そこには常に一定のバランスとなるように共存関係が働き、種を絶滅させないような仕組みとなっているのです。普通、小魚たちは、「敵」への対処の方法を、いわば遺伝的に身につけています。ところが在来の魚たちは、ブラックバスの攻撃から身を守り、生き延びる術(すべ)を知らないのです。

 琵琶湖でブラックバスが最初に発見されたのは1974年、以来、着実に数を増やしつづけています。ブラックバスも稚魚の時代に動物プランクトンをエサとしますが、体長が3.5cmくらいになったころから魚食性をあらわします。彼らはコイの幼魚やヨシノボリ、タナゴ類、アユ、フナ、ヒガイ、そしてエビなどの甲殻類を補食します。琵琶湖ではタイリクバラタナゴ、ヤリタナゴ、シロヒレタビライチモンジタナゴやモッゴはほとんど姿を消し、ホンモロコ、トウヨシノボリ、ワタカ、ビワヒガイも急速に姿を消しつつあります。その原因として、ブラックバスによる食害が大きいと考えられています。そうした中、草津市にある滋賀県立琵琶湖博物館では減少していく琵琶湖の魚たちの保護、増殖に取り組んでいます。ここでは、かつて琵琶湖でごく当たり前に泳いでいた魚たちを見ることができます。

人と魚にとって暮らしそのものだった琵琶湖

北湖の小さな漁港で洗濯をするおばあさん。上水道が整備され、洗濯機が普及したいまも湖は人の暮らしの中に生きています。
 南湖の水は汚れているが、北湖の水はきれいだといわれています。たしかに、北湖の水は浜からみてもかなりの透明度があり、水の中を泳ぐ魚の姿もみられます。北湖にある小さな漁港で洗濯ものをしている70歳過ぎのおばあさんに会いました。上水道や洗濯機の普及で、こうしてわざわざ湖まで洗濯をしにくる人は、村でも2〜3人だけとのことです。洗濯といっても、最後のすすぎをしにくるだけです。仕上げだけは湖でやらないと、衣服に石けんが残ってしまう気がして、着ごこちが悪いから、というのです。

 40〜50年前までは、浜で洗濯をするのが、この村では当たり前だったそうです。長イスの片側だけに足をつけたような板を浜から沖に向けて出し、その上に乗って洗濯をしたのです。洗濯だけではありません。米をといだり野菜を洗ったり、もちろん炊事や飲料用の水としても使っていたのです。湖の水で料理したものは、おいしいだけでなく、いたみにくい、ともいわれていたそうです。そして、浜の中へ足を入れるとボテジャコが足をつついたというのです。
 ボテジャコとは、タナゴ類の総称で、その中で一番ポピュラーなのがヤリタナゴです。釣り人たちは、ボテジャコがとれるとゴミでも引っかけてしまったような感覚で、そのまま捨てていたそうです。しかし、ボテジャコもいまではほとんど姿を消し、ニホンバラタナゴは、すでに絶滅しています。
 北湖の水はたしかにきれいです。でも、昔の北湖の水を知る人にとっては、やはり汚れが気になると語っています。

 琵琶湖には、多くの種類の魚がたくさんすんでいました。いまも多くの種類の魚たちがすんでいるのは事実ですが、その数は急激に減少しています。

琵琶湖に突き出るような「エリ」

湖岸に生えるヨシは水質浄化機能をもっているため、近年はヨシの保護も行われています。
 魚たちは、かなりの環境変化にもしぶとく適応する能力を身につけていると同時に、わずかな環境変化に対しても弱い面があるのです。ましてや水の汚れ、河川の改修、開発などによるヨシ帯や内湖の減少、帰化魚の侵入と繁殖などは、少なくとも琵琶湖の歴史のうち、ここ50万年の間にはなかったことばかりです。琵琶湖に限らず、日本中の川や湖などを、人間だけの立場で見るのではなく、魚たちの視点から見直さなければならない時代になっているのではないのでしょうか。


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