フジクリーン工業株式会社
水の話 淡水にすむ魚part1
琵琶湖のエリ漁

時代とともに変わるエリ
 西井さんと一緒にエリ漁をしているのは兄の淳一さん、大釜さん、藤戸さん、竹田さんの5人です。このうち「しゅうちゃん」と皆から親しみを込めて呼ばれている大釜さんが一番の年輩です。「古い話なら、しゅうちゃんがよく知っとるで」。午前中、3カ所のエリから仔アユをあげたあと、前日に山で撃ったというシシの肉で一杯やりながら、話がはずみます。

エリ漁で一緒に捕獲されたワカサギとイサザ。仔アユを取る漁師にとって、ワカサギはあまり歓迎される魚ではありません。


つぼと呼ばれる部分の網をたぐり寄せると無数の仔アユが入っていました。


漁港の近くで、草におおわれていた塩ビ製の簀。網が使われるようになる前は、この簀が使われていました。
 昔のエリは網ではなく竹簀でつくられていました。水中に竹の棒を立て、そこへ竹簀を張っていくのです。しゅうちゃんはエリづくりの頭領もしていたのです。もちろん竹簀もつくりました。「まず竹の根元の方に、ぐるりと斜めにのこぎりの目を入れておくんや。そいでしん(竹の先)から割って、それを簀に編むんや」。竹をきれいに編むには、割った通りの順番に並べるようにしなければなりません。そのための目印です。淳一さんも「なるほど」といって感心しています。

 西井さんがエリ漁をはじめたのは、30年近く前。そのときには、すでに簀は竹製ではなく塩化ビニール製となっていました。塩ビ製になったとはいえ、たんに素材が変わっただけ、毎年11月から始まるエリ漁のため、簀を張る準備には1カ月近くかかっていました。簀には塩ビを250本で編んだものと350本で編んだ2種類があり、湖水に立てた杭の間隔に合わせ、この大小2通りの簀を張っていくのです。水深10m以上、つまり、簀の長さも10m以上となっています。陸地、もしくは船上で大小の簀をつないでから、水中へ降ろして張るのです。簀は重ね合わせながらつないでいきますが、重ね方が逆になると魚はうまくエリの中に入ってきてくれません。大小の簀を組み合わせ、使用箇所の大きさに合わせた簀を幾通りか作るのですが、組み合せ方を間違えるととんでもない所にすき間ができてしまいます。そうした作業を小さな船の上でも行うのです。漁そのものよりも、こうした「簀を立てる」作業や、8月になって漁が終ったあとで、簀を撤去する作業は、かなりの重労働のようでした。
 「エリ漁を始めて5〜6年したところで、塩ビの簀から網に代わり、作業はかなり楽になったね。つぼのとこの網かね。あれは、あまり細かい魚はとらんよう、目の粗いもんを使ってますよ」。簀も、あまり目の細かいものではありません。稚魚はとれないのです。つぼも、一度入ってしまったら、逃げ出せない構造にはなっていないのです。エリ漁は、平安時代から行われているようです。昔から行われているこの漁法には、稚魚までも取りつくさないような工夫があったのです。


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